カテゴリー: 風土産業研究所

  • 設立趣意書

    設立趣意書

    はじめに

    時の流れとともに、人間の私たちの価値観も少しずつ変化してきました。効率を最優先し、便利で安価なものを大量に生産して富を追求することが「正解」とされる今の時代。その陰で、日本が本来持っていた地域固有の輝きや、精神的な充足感、すなわち「風土」から生まれる思いや営みが、少しずつ色褪せさているように感じられます。効率や標準化が優先される社会の中で、その土地ならではの個性や物語は、その価値を正しく評価される機会を失いつつあるのではないでしょうか。

    地域の個性よりも都会的な利便性を追い求めた結果、どこへ行っても同じような風景、同じような産業、均質な生活・教育が広がっています。こうした状況は、私たちが自分の頭で考え、自分のビジョンを描くことを忘れ、マスメディア・ネットで得られるような情報を使い、地に足が付いていない評論家的な発言を増やしてしまっているからかもしれません。

    私たちは、この現状に強い危機感を抱くと同時に、未来への大いなる可能性を見出しています。日本の真の力は、多様な「風土」の中にこそ眠っていると確信するからです。「風土」とは、人と人、人と自然の「つながり」そのものです。景色、空気、土、におい、そして歴史・文化。それらすべてが人々の営みに結びついています。それは、地球(自然)の輪廻の上に成り立つイキイキとした人の在り方であり、その営みを通じて、人々は互いに思いやり・共に成長していくものです。

    この確信のもと、日本の各地域に根差した新しい価値を生み出す共同体を構想し、創造するための実践的な場として「一般社団法人 風土産業研究所」を設立いたします。

    私たちの思想 ―「風土産業」とは

    農業、林業、漁業、工業、商業に関わる一人ひとりが、単に「効率」や経済的な合理性だけを求めるのではなく、地球のエネルギーや自然の持つ力を俯瞰的にかつ深く理解し、自分ごととしての思いを活動に重ね合わせにすることが大切です。

    さらに、これまでの産業の歴史(繁栄だけでなく衰退や災害)・お祭りや風習、気質いった文化も含む「風土」をより一層深く・丁寧に観察し、その本筒を原理原則に沿った機能として構造化・俯瞰的に捉えなおしていくことが必要です。この活動を通じて、新たに必要な技術・気づき、そして志を同じくする仲間と出会うことができると考えています。

    私たちは、人々の間に受け継がれてきた「暗黙知」を、その土地ならではの「価値」として目に見える形に引き出し、多様な暮らしとその地域の資産を立体的に組みあげることで、地域の価値を高める活動を「風土産業」と定義します。

    「風土産業」が目指すのは、単なる産業の強化だけではありません。関わる全ての人々が、互いに思いやり、共に育むことを大切する。そうして生まれた「渦」が大きなエネルギーとなり、活動を推進する力となります。そのための大切な土台となるのが「共育(ともいく)」という考え方です。

    「共育」の考え方、「場」の重要性

     共育(ともいく)とは、自然と共に生き、仲間と共に生きることを、自分ごととして捉え、一人ひとりが主役なって、自らが覚悟をきめることです。自然と生きる(生かされている)という謙虚さを持ち、上下関係でなくフラットな関係でお互いを尊敬し、対話を重ねる。自分で感じ、考え、行動する。そして志を持ち、情熱を絶やさないこと。周囲との対話を通じて共感の和が広がることで、さらにワクワクするような個人のエネルギーはさらに増幅していきます。

     私たちが創る「場」とは、「状況が人を働かす(うごかす)」状況を創ること。「場」とは、建物でも、物理的な空間・スペースではなく、スキルのみを教え込む場所、与えられた作業をさせる場所ではない。まして、階層型な組織でもない。参加者自身が場の一部となり、自分を信じて、他者と対話することで、一人ひとりが主役なれる、まさに「共育」を実践する場なのです。

     

    私たちの目的と活動

    本研究所は、地域で活動する人々が、「共育(ともいく)」の考え方をベースに、自らの風土に誇りを持ち、多様な仲間と共に、その地域の「価値」を創造する活動を支援します。そのために、地域に眠る「暗黙知」を多くの人に共感される「価値」として見える化し、対話の場を通じて「風土産業」として形にするお手伝いをいたします。

    具体的には、以下の活動を推進してまいります。

    1.思いを持つ仲間づくりと目的・目標づくり

    「共育」の考え方に共感いただいた人々が集う「価値共創ワークショップ」を開催します。地域の魅力や課題を俯瞰的に捉え、その中で、自分のやるべきこと、やりたいこと(目的・目標)を明確にし、全体像を構造化することから始めます。

    2.目的・目標の機能価値の定義、機能体系図作成

    目指すべき姿を、「価値」として定義し、それを構成する様々な要素・要因を洗い出し、体系的に構造化したうえで、俯瞰的に「価値」が発現されるように整理します。そのためには、目指す「価値」を「機能」と「その水準」(機能水準)で表現します。「機能」は複雑な特性群で構成されていることから、「わかっていること」・「わかっていないこと」を明確にし、「わかっていないこと」を解析的に理解した上で、それらを定量的に把握し構造化、実研(解析実験と研究開発)を踏まえて「機能展開」を実施し「機能体系図」を作成します。機能を構造として表現できれば、「価値」が過去から現在までどのように推移してきたか、その推移はどの特性が重視され、あるいは軽視された結果として現在に至っているかを考察できるようになります。さらに未来に向かって高める方向・方法を、対象とする特性とその水準として、具体的な目標として設定できます。

    3.機能体系図を活用した未来へのシナリオづくり

    観察・仮説・実研・考察・さらに仮説の見直しというステップを踏みながら、「機能のカラクリ」を定量的に把握します。目指す「価値」を構成要素としての特性、それらに持たせるべき定量的な水準、その組み合わせを描き実現性を検討します。この特性の組み合わせが共同体の夢や思いを実現するためのシナリオとなります。

    4.「風土産業」の実装:共同体プロジェクト計画の作成

    共同体の夢や思いを実現する骨子となるシナリオが出来上がったあと、多くの賛同を受けるプロジェクトにすることが必要となります。ここでは、関係者が共感し、共に歩める到達点と計画を創り上げていきます。

    結びに

    現代社会は、今、大きな行き詰まりを見せています。技術や資本の加速によって既存のシステムを壊そうとする動きや、グローバル資本の波に押されて地域の共同体が解体され、人々が孤立していく現状があります。
      この閉塞感のある時代において、私たちは単に過去を懐かしむのでもなく、諦めるのでもなく、新しい社会構想を提示したいと考えています。その鍵こそが、日本の歴史と風土の中に眠る「小さな共同体の再構築」であり、「風土産業」の実践であります。

    私たちがこれから歩む道は、決して平坦ではないかもしれません。しかし、日本の地域には、まだ見ぬ可能性が無限に広がっています。地域に暮らす皆さんが風土に誇りを持ち、未来を仲間と共に創り打ひていく。私たちはその「伴走者」でありたいと願っています。

    風土産業研究所の設立は、現代社会に対する日本からのささやかな、しかし確かな「答え」です。土地・地域から切り離された「個人」を、再び温かな関係性の中へ。無限の成長を追い求める経済を、持続可能な「地球の輪廻・循環」の中へ。形骸化した統治システムを、生活実感に基づいた「自分ごと」としての営みとして取り戻します。

    この活動が、新しい価値創造を通じて、日本の次なる時代を築く一助となることを信じ、ここにその第一歩を踏み出すことを宣言いたします。

    皆様のご理解とご支援、そしてご参画を心よりお願い申し上げます。

    一般社団法人 風土産業研究所

    設立発起人一同  

      代表:榊   純一
         秋田大学・秋田県立大学 学長特別補佐
         秋田銀行 社外取締役 ほか

  • ロゴマークへの思い

    このロゴは、「豊かな土壌(過去・風土)」と、そこから生まれ育つ

    「新しいいいのち(未来・産業)」が、互いに寄り添い、支え合っている姿を表現しています。

    前景の「新緑の葉」

    意味>未来、希望、成長、新しい産業、そして吾々が応援する「若者や挑戦者たちの瑞々しい思い」。

    思い> 鮮やかな緑は、これから力強く伸びていく生命力を象徴しています。

    現場の小さな「思い」の種が、やがて地域を潤す大きな葉へと育つことへの確信を表します。

    背景の「深緑の葉(影)」

    意味>風土、歴史、伝統、先人の知恵、そして現場で孤軍奮闘してきた人々の「経験と汗(土壌)」。

    思い:落ち着いた深緑色は、緑の葉を支える母なる大地(土)の色をイメージします。新しい挑戦は、決して過去を否定するものではなく、地域が培ってきた豊かな歴史という土台があってこそ成り立つ、という敬意と感謝を表します。

    二つの葉の「重なり」

    意味> 共生、継承、循環。

    思い: 過去(深緑)と未来(新緑)が分断されることなく、ぴったりと寄り添う姿は、世代を超えた対話と協力を象徴します。「古いもの」を栄養として「新しいもの」が育ち、それがまた次の時代の土壌となっていく、持続可能な「風土産業」の循環そのものです。

    「地域の厚い土壌(風土・歴史)を礎(いしずえ)に、一人ひとりの熱い思い(種)を、未来の豊かな産業(葉)へと育て上げる。」

    風土産業研究所は、このロゴのように、過去と未来、土と緑の間に立ち、両者をつなぐ架け橋として、地域に新しい息吹をもたらす存在であり続けます。

  • 代表理事挨拶

    代表理事挨拶

    一般社団法人 風土産業研究所のホームページをご覧いただき,誠にありがとうございます。代表理事の榊純一です。

    現在,日本の多くの企業や行政機関は,従来の成功体験の延長線上で物事を考えています。もちろん改善は重要ですが,伸びしろの限られた「連続的な改良」だけでは,人口減少や地域衰退といった構造的課題を乗り越えることはできません。

    今,求められているのは,「連続」から「非連続」への発想転換です。特に地方創生において,私は長年,大きな違和感を抱いてきました。地方政策の多くは,豊富な人材や情報が集まる中央で立案されています。しかし,地方には地方特有の風土,歴史,人間関係,産業構造があります。その土地を深く知らずに作られた政策は,どうしても画一的になりがちです。

    一方で,地方の現場では,人口減少以上に深刻な問題があります。それは,自ら未来を構想し,企画し,実行する力が不足していることです。地域には熱意ある人材が存在していても,限られたリソースの中で孤立し,挑戦する機会を持てない場合が少なくありません。

    だからこそ私は,その土地を本当に知る人,その土地に愛着を持つ人,その土地で挑戦したい人たちが,少数精鋭で地域に根差した産業を育てていくことが重要だと考えています。

    私たちが大切にしている「風土」とは,単なる自然環境ではありません。そこに暮らす人々の価値観,歴史,文化,人間関係,さらには言葉にならない「暗黙知」まで含めた,その土地固有の力です。

    真に豊かな社会とは,所得やインフラ整備だけで測れるものではありません。便利さや効率性だけでは得られない,人と人とのつながり,地域への誇り,自ら挑戦できる実感。そうした価値の重要性に,多くの人がようやく気づき始めています。

    私は,この新しい豊かさのあり方こそ,地方から日本全体へ発信できる知恵だと信じています。

    風土産業研究所は,地域に眠る「暗黙知」や人のつながりを見える化し,その土地ならではの価値を持つ「風土産業」の創出に挑戦してまいります。また,挑戦する人を支え,失敗を許容し,次の挑戦につなげる風土を育てることも,私たちの大切な使命です。挑戦した結果に対して「It’s OK(大丈夫、次に活かそう)」と言い合える雰囲気や環境を整え,「まずやってみる」ことに価値があることを伝えていきたいと思います。

    地方には,まだ眠っている力があります。

    その土地に根差した人々の知恵と挑戦によって,新しい時代の豊かさを共に創り出していきたいと考えております。

    今後とも,皆様のご理解とご支援を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。

    一般社団法人 風土産業研究所

    代表理事 榊 純一

  • 理事・研究員紹介

    理事・研究員紹介

    榊 純一(Sakaki Junichi)

    一般社団法人 風土産業研究所 代表理事

    • 経歴
      • 秋田県立秋田高等学校 卒業
      • 東北大学大学院工学研究科機械工学専攻修了
      • 株式会社IHI(旧・石川島播磨重工業)入社
        • 長年にわたり航空エンジンの性能およびシステム設計の第一線で活躍し、同分野における高度な専門性と研究業績を有する。同社において常務執行役員、顧問を歴任した後に退社。
    • 現職・要職
      • 秋田銀行 社外取締役
      • 秋田大学・秋田県立大学 電動化システム共同研究センター センター長
      • 秋田大学 学長特別補佐
      • 秋田県立大学 学長特別補佐・客員教授

    【活動への想い】
     長年、グローバルな最先端産業の勢流の中に身を置いてきましたが、いま改めて、地元・秋田をはじめとする地域社会の発展と次世代の育成という「足元にある風土の豊かさ」に強く引き戻され、その可能性に魅了されています。

     制度の形骸化や人口減少といった地域の厳しい現実に正面から向き合い、産業界とアカデミア(教育・研究機関)の架け橋として多面的なプロジェクトを牽引するとともに、風土産業研究所の代表理事として、地域に眠る資産や暗黙知を価値化し、若い挑戦者を社会全体で育む「It’s OK文化」の定着に向けて活動して参ります。

    羽山信宏(はやまのぶひろ)

    一般社団法人 風土産業研究所 代表理事 

     広島県生まれ、広島大学を経て、マツダの入社、マツダのパワートレイン部門のトップとして、マツダのブランド・技術力の代名詞ともいえる「スカイアクティブエンジン」の開発を統括・指揮しました。 また、1991年のルマン優勝の影の立役者として、ロータリー中興の祖として知られています。 著書「つくりたいんは世界一のエンジンじゃろうが!」、「世界一」のエンジンを目指し、これまでの性能競争に終止符を打つべくエンジンのあるべき姿を「機能」で考え抜き、燃焼のカラクリを解きあかしていく「機能で考える開発」により、メンバーの思い・目的を重ね合わせ、世界一の熱効率を誇るエンジンの開発に成功しました。その後、マツダ株式会社取締役執行役員専務を最後に退社され、2013年:株式会社電通国際情報サービス:略称ISID(現株式会社電通総研)の100%子会社:ISIDエンジニアリングの設立に参画され、その後、株式会社電通国際情報サービス(現株式会社電通総研)特別アドバイザーを経て、現在は一般社団法人 風土産業研究所の発起人、理事に就任。これまでの自身の開発経験をもとに、開発現場の生々しいトピックを織り交ぜ、「開発とは・エンジニアとはどうあるべきか?」について、生活者視点・経営者視点・技術者視点を持って講演活動・発信活動を継続している。

    著作:つくりたいんは世界一のエンジンじゃろぅが! (B&Tブックス) 単行本 – 2014/9/28

    「連載:羽山信宏のつれずれなる風土産業記」、ぜひ、ご一読ください。

    羽山信宏のつれづれなる風土産業記 – 一般社団法人 風土産業研究所