共に育ち、風土を拓く――「指示待ち」の時代を超えて
マツダでの「SKYACTIV」という奇跡に近い開発経験は、私の中で一つの確信に変わりました。そして今、私はその成功体験の舞台を、自動車産業から「地域創生」という広大なフィールドへと移そうとしています。締めくくりとして、製造業の歩みとこれからの社会、そして「風土産業」と「共育(ともいく)」への想いを綴ります。
かつて日本の製造業が世界を席巻した背景には、1970年代から徹底された「手順化」と「標準化」がありました。規律を重んじ、教えられたことを正確に実行する。その真面目さと協調性が、日本流の効率化を支え、高品質なものづくりを実現したのです。
この社会構造は、教育のあり方にも色濃く反映されました。「教える先生」と「教えられる生徒」という明確な境界線。偏差値という画一的な物差し。企業に入れば「リーダー」と「フォロワー」というピラミッド構造の中で、上司の指示を完遂することが最大の成果とされました。追いつけ、追い越せと背中を追う時代において、それは最も効率的なシステムだったのかもしれません。
しかし、いざ先頭に立ち、追うべき背中がなくなったとき、私たちは立ち止まってしまいました。
効率を極めた先に何があるのか。今、私たちが真に求められているのは、単なる改善ではなく「新しい価値の創造」ではないでしょうか。
新しい価値とは、画一的な組織からは生まれません。異なる価値観を持つ人々が本音で議論し、思考を深める中で、まだ誰も気づいていない世界を形にしていく。そのプロセスそのものが、価値創造の源泉なのです。
ここで問われるのは、知識の量や経験の長さではありません。持っている知識をどう編み直し、昇華させるか。そして、それを成し遂げるためのエネルギーをいかにして生み出すか、という点に尽きます。
一人ひとりが主体性を持ち、「何かを成し遂げたい」という強い意志をぶつけ合う。そこには、役割としての「社長」や「部長」はあっても、人間としての上下関係はありません。お互いに学び、刺激し合い、共に高まっていく。この「共育(ともいく)」の関係こそが、集団の力を最大化させるのです。
私は、この「共育」の精神を、地域創生の核となる「風土産業」に実装したいと考えています。
その土地にしかない歴史、風土、そして人。それらに立脚した産業を興すとき、従来の古いピラミッド組織は必要ありません。目指すのは、関わるすべての人々が主役となる「小さな共同体」です。
かつてエンジンの内部現象を可視化し、エンジニアたちが本来の喜びを取り戻したように、地域の可能性を見える化し、共に汗をかく仲間を増やす。その共同体が活性化し、成長していくための栄養素こそが、共に育ちたいと願う「共育」のエネルギーであると私は信じています。
効率を超えた先にある、人間味あふれる産業の形。風土に根ざし、人が輝く未来を、私はこの「小さな共同体」から創り出していきます。

